チームで成果を出すのって、意外に簡単なようで難しいですよね。というお話です。背景に歪んだ「成果主義」があるような気がしており、この話題以外でも色々ネタとして出てきそうな気はします。結論として、チームで仕事をすることは自分と向き合うことです。
チームワークが難しい?
「チームで仕事をするのが苦手」という若手社員の声を最近耳にして、ちょっと気になっていました。その背景にあるのは、単純なスキル不足や経験不足だけではなさそうです。もっと深いところで、「チームで仕事をする意味」を見いだせない状況が生まれているように感じます。
これが顕著に現れるのが、資料レビューや相互フィードバックの場です。お互いの成果物をチェックし合うはずなのに、踏み込んだ指摘が出てこない。「いいと思います」「特に気になる点はありません」で終わる場面、経験したことがある人も多いのではないでしょうか。
では、なぜそうなるのか。私の観察では、そこには評価の仕組みや組織文化、さらには心理的要因が複雑に絡んでいます。そして、この構造を理解せずに「もっと積極的にレビューしよう」と号令をかけても、状況はほとんど変わりません。
この記事では、まず「なぜチームで仕事をするのが難しいのか」を分解し、その背景を探ってみました。そこから悪循環の構造を描き出し、抜け出すための道筋を示し、最後に今の時代だからこそ必要な「内的評価軸」という持論を導いてみます。
チームでの仕事が“難しい”と感じる背景
なぜ難しいと感じるのか。そこにはいくつかの背景があるように感じます。
個人成果主義の影響
成果主義は本来、努力と結果を公平に評価するための仕組みです。ところが、その運用が「個人成果主義」に傾きすぎると、評価は「自分の得点をどう増やすか」というゲームに変質します。
こうなると、チームメンバーへのフィードバックは「相手のミスを拾う=相手の評価を下げる」または「自分の責任範囲を広げるリスク」と感じられるようになります。結果として、レビューは表面的な確認作業に終始し、深い議論や改善提案が出にくくなります。
この状態では、「チームでやる意味」が次第に薄れます。むしろ、互いの領域に踏み込まないほうが安全だという心理が働き、チーム全体の知見の共有も進まなくなります。
表面的な心理的安全=ぬるいチーム問題
心理的安全性は、今や組織開発のキーワードとして定着しました。ただし、ここに落とし穴があります。
多くの現場では「心理的安全=和やかな雰囲気」と解釈されがちです。異論を控え、波風を立てずに進めることが安全であるかのように振る舞う。しかし、それは本来の心理的安全性ではありません。本来は、異論や指摘が自然に出て、それが個人攻撃と捉えられない状態こそが心理的安全です。
表面的な安全は、短期的には心地よいのですが、長期的にはメンバーの成長意欲を削ぎ、貢献意識を弱めます。「仲良しクラブ」になってしまうと、チームでの学びも挑戦も停滞します。
評価軸のぶれと評価者最適化
不確実性の高い時代、組織の評価基準がしばしば変わります。戦略転換、新しい目標設定、KPIの変更…。こうした変化は本来、組織を環境適応させるために必要なものですが、現場のメンバーから見ると「評価の基準がコロコロ変わる」ように映ります。
すると、人はどう動くか。最も確実な成果の出し方=評価者に気に入られること、という行動パターンに陥ります。
これは「評価者最適化」と呼べる現象で、短期的には効果があるように見えても、チームの成果や長期的な成長とは相性が悪い。チームよりも上司、長期的な改善よりも短期的アピールに意識が傾きます。
チームの価値を見失う悪循環
これらの要因が組み合わさると、次のような悪循環が生まれます。
- 成長実感がない
- 貢献意識が下がる
- レビューや議論が浅くなる
- 学びの機会が減る
- さらに成長実感がなくなる…
やがて、「正直、一人でやったほうが早いし成果も出せる」という考えに至ります。チームの存在は単なるタスク分担の枠組みに堕し、相乗効果は消えてしまいます。
この悪循環に気づかせる問い
こうした状況から抜け出す第一歩は、本人に現状を自覚させることです。そのための問いとして私がよく使うのがこれです。
「チームのメンバーがいたことで、自分の能力を超えるアウトプットを導き出せたか?」
答えがNOであれば、それは「チームの価値を感じられていない」ということです。補助的に以下の質問も有効です。
- チームの関与で明らかに変わった部分はどこか?
- 一人でやっていたら弱くなっていた部分は?
- 次回、同じチームでどうすれば“自分超え”できるか?
この問いを定例の振り返りに組み込み、メンバー全員が短くてもいいので言葉にする習慣を作ると、徐々に「チームでやる意味」の輪郭が見えてきます。
また逆説的に、「自分がチームメンバーの成果にどう貢献できたか?」という問いも有益だと考えています。
状況を抜け出すための3つの方向性
この状況を抜け出すにはいくつかの側面からの対処が必要になると思います。
貢献の可視化
チーム内の改善提案や支援行動を記録し、共有します。誰のどの行動が成果物の品質やスピードに影響したのかを可視化し、貢献を称賛します。これが続くと、「貢献すれば認知される」という動機が生まれます。
本物の心理的安全性を築く
異論や指摘を歓迎する文化をリーダーが率先して示すことが重要です。事実ベースで改善提案を行い、感情的対立を避けつつも、質を高めるための議論を奨励します。
評価制度とプロセスの設計
変化が多い中でも、変わらない「核となる評価軸」を設定します。成果・協働行動・改善提案など、長期的に価値を持つ行動を評価基準に含め、自己評価・相互評価・上司評価の三角構造で整合性を取ります。
内的評価軸を強く持つ意味
ここで一つの案です。「内的動機付け」にも通じますが、私自身は「内的評価軸」を持つのが一つの策だと感じています。
外的評価の限界
外部の評価は変化します。評価者が変われば価値基準も変わります。そこに依存していると、方向性がぶれ、キャリアの積み上げが難しくなります。
内的評価軸の効果
「成長」と「貢献」という内的基準を持てば、外部の変化に振り回されずに行動できます。キャリアの一貫性を保ち、長期的には成果も評価も安定して伸びていきます。チームにおいても、安定した軸を持つ人は周囲に良い影響を与えます。
具体的な構成例
- 成長軸:新スキル習得、既存スキルの深化、過去の自分との比較
- 貢献軸:チームへの具体的寄与、他者の成長支援、社外価値提供
この2つの軸を自分の中に持つことで、外的な評価への依存をコントロールできる強いメンタリティを持つことができると考えています。
結論、チームで仕事をすることは、自分を見つめること
要するにこれはメタ認知にも通じる考え方で、強い内的評価軸を持つことは、長期的に見て、自分の成長や評価を大きく上振れさせる可能性が高いです。不確実な時代だからこそ、外的評価軸に最適化するだけでなく、内的評価軸を確立し、それを日々の行動判断に組み込むべきでしょう。
結局、チームで仕事をするということは、自分を見つめることと繋がっています。チームメンバーそれぞれが「自分」を持っているのですから、自分と向き合う相手の「自分」を、どう捉えるか、というのが本質になってきます。
チームでの仕事に難しさを感じるのは、一つ成長のきっかけでもあると考えます。ぜひ、「ひとりでやったほうが速い」呪いに陥らないよう、注意しましょう。
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