AIを使える人と使えない人の差が、見えないまま広がっている

ブログ

職場でAIの活用について話していると、最近、少し気になることがあります。

世の中はすでに、AIを仕事に組み込める人と、そうでない人に分かれ始めているのではないか、ということです。

もちろん、きれいに二つの層に分かれているわけではありません。ChatGPTでメールを直す人もいれば、調査や分析の補助に使う人もいます。業務を分解してAIに任せる人もいれば、複数のAIを動かし、人間は判断と品質確認に回る人もいます。

同じ「AIを使っている」という言葉の中に、かなり違う働き方が含まれています。

そして、厄介なのは、その差があまり見えないことです。

AIを使ったかどうかは、成果物を見ても分からない

完成した資料だけを見ても、それを人が一日かけて作ったのか、AIを使って二時間で作ったのかは分かりません。

さらに言えば、見た目が同じような資料でも、片方は自分が最初に考えた案をまとめただけかもしれません。もう片方はAIを使って複数の仮説を出し、反対意見を検討し、情報源を確認したうえでまとめているかもしれません。

最終的な成果物だけを見ていると、その過程でどれだけ探索したのか、どれだけ手戻りを減らしたのか、どこまで検討の幅を広げたのかは見えません。

AIによる差は、単純な作業時間の差だけではないと思っています。

今まで三つしか検討できなかった案を十案まで広げられる。自分では思いつかなかった反対解釈を確認できる。文章を書く前に論点の抜けを洗い出せる。知らない分野についても、専門家に聞く前の準備をかなり進められる。

こうした違いは、日々の小さな作業の中では目立ちません。ただ、それが毎日積み重なると、数か月後にはかなり大きな差になっている可能性があります。

Microsoftは2025年と2026年のWork Trend Indexで、AIの利用を単発の作業補助にとどめず、業務や組織の運営モデルそのものを組み替える動きを取り上げています。2026年の整理では、人とAIの関係を、部分的な補助から、初稿作成、タスクの委任、複数エージェントの統括まで、いくつかの段階に分けています。

これはMicrosoftによる調査と将来像なので、そのまま一般化することには注意が必要です。ただ、AI活用の差を「プロンプトが上手かどうか」ではなく、「仕事をどこまでAIとの共同作業として再設計できているか」と見る考え方は、実感にも合います。

「使っている人」の中でも差がある

AI活用というと、利用者と非利用者の比較になりがちです。

ただ、実際に大きな差が生まれているのは、AIをまったく使わない人と使う人の間だけではありません。AIを文章の修正や検索の代わりに使う人と、仕事の進め方そのものを組み替えている人の間にも、かなり大きな差があります。

例えば調査業務であれば、検索結果を要約させるだけなら、従来作業の一部を短縮しているだけです。

一方で、最初に調査目的を整理し、論点を分解し、情報源を探し、比較表を作り、矛盾を確認し、反対仮説を出し、最後に人間が一次情報を確認するところまで設計すれば、仕事の進め方はかなり変わります。

前者は道具の置き換えですが、後者は工程の組み替えです。

この二つが、どちらも「AIを使っています」という回答になってしまいます。

そのため、利用者数や利用回数だけを見ても、組織のAI活用がどこまで進んでいるのかは、あまり分からないのだと思います。

成功事例を共有しても、使わない人は使わない

では、AIを使えている人の事例を共有すれば、組織全体に広がっていくのでしょうか。

これは、思ったほど簡単ではないと感じています。

「AIを使って提案書の作成時間を半分にしました」

「このプロンプトを使えば市場調査ができます」

「この手順で議事録を自動作成できます」

こうした事例には価値があります。すでに使う意思がある人にとっては、良いヒントになります。

ただ、もともと手を動かさない人は、事例を見ても手を動かしません。

その人から見れば、「その人だからできた」「自分の業務には合わない」「入力する内容を考える方が面倒」「間違ったときの責任が怖い」という話になるからです。

そもそも、今のやり方で仕事が成立しているのであれば、わざわざ新しい方法を覚える理由もありません。

料理をしない人に料理動画を見せ続けても、料理を始めるとは限りません。動画を見て面白いとは思うかもしれませんが、食材を買い、道具を出し、自分で作るところには別のハードルがあります。

AIの成功事例の共有にも、これと似たところがあると思っています。

情報共有は、相手が情報を受け取ったところで終わりではありません。以前、情報共有しない人について考えたときにも感じたことですが、情報の出し手と受け手の間で、何のために共有し、受け取った側に何を期待するのかが一致していなければ、情報は流れていても仕事には反映されません。

AI活用事例についても、共有したこと自体を成果にしてしまうと、使う人だけがさらに使い、使わない人はそのまま残ることになります。

使わない理由を、能力不足でまとめないほうがよい

ここで注意したいのは、AIを使わない人を、すべて「能力が低い人」として扱わないことです。

最初の一歩が分からない人もいます。

AIの出力をどこまで信用してよいのか分からず、不安を感じている人もいます。機密情報を入力してよいのか、間違った文章を出してしまったら誰が責任を持つのか、会社の方針が見えないために使えない人もいるでしょう。

また、自分の業務では効果がないと考えている人もいます。その判断が正しい場合もあります。

すべての仕事をAIに寄せればよいわけではありません。顧客との関係づくりや、現場での微妙な判断、説明責任を伴う最終決定など、人が直接担った方がよい仕事は残ります。

AIに任せることで、かえって確認作業が増える業務もあります。

したがって、使わない人を問題視する前に、使える環境があるのか、使うべき業務が明確なのか、事故が起きた場合の責任分界が示されているのかは確認する必要があります。

ただし、それらが用意されているにもかかわらず、手を動かそうとしない人も、実際にはいると思います。

ここは、スキルの問題と意思の問題を分けて考えた方がよいです。

方法が分からないのであれば教えればよい。不安があるのであれば、安全に試せる範囲を決めればよい。業務に合わないのであれば、無理に使わせる必要はありません。

一方で、業務上必要になっているにもかかわらず、新しいやり方を覚える意思がないのであれば、それは研修だけで解決する話ではなくなります。

「自由に使ってください」では広がらない

AI活用が広がらない組織では、「便利なので自由に使ってください」という進め方をしていることがあります。

一見すると自由で良さそうですが、使えない人にとっては自由度が高すぎます。

どの業務に使うのか。何を入力するのか。どの出力を信用するのか。どこを人が確認するのか。全部を自分で考えなければなりません。

使い慣れている人には自由が必要ですが、使い始める人には、むしろ決められた入口が必要です。

例えば市場調査であれば、調査対象を入力し、決められた指示を実行し、提示された情報源を確認し、事実と推測を分け、所定の形式にまとめるところまで、一つの手順として用意しておく。

この段階では、本人が高度なプロンプトを書く必要はありません。

まずは決められた手順を使って、実際の仕事を一件終わらせる。その後で、自分の業務に合わせて変えていけばよいのだと思います。

自転車に乗れない人に、乗り方の資料を渡して自由に練習してもらうより、最初は補助輪を付けて、横で支えた方が早いのと同じです。

研修より、実際の仕事を一緒に処理した方がよい

AI研修では、ツールの機能やプロンプトの書き方を学ぶことが多いと思います。

それ自体は必要ですが、研修を受けたことと、実際の仕事で使えることは別です。

本当に必要なのは、本人が今持っている仕事を一つ選び、その仕事をAIと一緒に最後まで処理する経験ではないかと思います。

AI推進担当者が操作を見せるのではなく、本人が操作する。

目的を一文で書く。必要な条件を加える。出力の不足を指摘する。根拠を確認する。最終的な成果物に整える。

途中で何を考え、どこを疑い、どこから先を人が判断するのかも含めて、一緒に進めます。

これを同じ種類の仕事で何度か繰り返せば、少なくとも決められた型は使えるようになります。

相談窓口を設置するだけでは、使わない人は相談に来ません。手を挙げた人だけを支援していると、もともと関心のある人ばかりが上達します。

組織として差を縮めたいのであれば、支援する側から実際の業務に入っていく必要があります。

個人の努力ではなく、仕事の側を変える

それでも、すべてを本人の学習意欲に任せるのには限界があります。

最終的には、AIを使うかどうかを個人の好みとして扱うのではなく、仕事の進め方の中に組み込む必要があります。

例えば、「議事録の作成にAIを使ってもよい」と案内するだけではなく、会議終了後にAIで初稿を作り、人が確認し、一定時間内に共有するところまでを標準手順にする。

この場合、目的はAIを使わせることではありません。会議後の情報共有を早く、安定して行うことです。その手段としてAIを工程に入れています。

重要なのは、AIの利用回数を増やすことではなく、AIを使うことで成立する納期、品質、処理量を業務の基準にすることだと思います。

ただし、ここで納期だけを短くすると、単なる負荷の引き上げになります。

使用するツール、入力する情報、確認する項目、問題が起きた場合の扱いまで含めて、業務手順として整える必要があります。

Microsoftが示している人とAIの協働モデルでも、すべての業務を自動化するのではなく、仕事ごとに人の関与方法を選ぶことが重要だとされています。AIに任せる範囲が広がるほど、人の仕事はなくなるというより、方向付け、基準の設定、結果の評価へ移っていくという整理です。

この見方に立つと、AI活用はツール導入の話というより、業務設計と役割設計の話になってきます。

全員をAIの達人にする必要はない

とはいえ、全員が高度にAIを使いこなす組織を目指す必要はないと思っています。

新しい使い方を考えるのが得意な人もいれば、決められた手順を正確に実行するのが得意な人もいます。

AIの操作は得意でなくても、現場の例外を知っている人、顧客の反応を予測できる人、出力の不自然さに気づける人もいます。

AIを使う人だけに価値があり、使わない人には価値がない、という話ではありません。

AIが生成した結果を評価するためには、その業務についての知識が必要です。何が間違っているのかを判断できなければ、AIを速く操作できても、仕事としては成立しません。

組織には、新しい使い方を試す人、標準化された方法を使う人、専門知識によって品質を確認する人がいてよいと思います。

問題は、どの役割も担わない場合です。

AIの利用には適応しない。標準手順も使わない。専門知識を品質管理に生かすこともしない。業務の変化にも関わろうとしない。

そこまで来ると、AI研修の問題ではなく、人材配置や職務評価の問題として扱わざるを得ません。

PCが普及した時代にも、すべての人がコンピューターの専門家になったわけではありません。ただ、仕事に必要な範囲で使うことは、次第に職務の一部になりました。

AIも、おそらく同じような位置づけになっていくのだと思います。ただし、AIは決められた操作を覚えれば終わる道具ではありません。目的を伝え、出力を疑い、結果を評価する必要があります。

そのため、操作教育だけではなく、仕事をどのように分解し、どこを人が担うかまで考えなければならない点が、これまでのIT導入とは少し違います。

試した人だけが損をする状態にしない

AI活用を進めると、最初に使い始めた人へ仕事が集中することがあります。

周囲から質問され、プロンプトを作り、他人の出力を直し、業務手順まで作る。それでも本人の評価は、従来の担当業務だけで決まる。

これでは、AIを使える人ほど余計な仕事を抱えることになります。

新しい方法を試す期間は、一時的に生産性が下がることもあります。使い慣れた方法で処理した方が早い場面もあります。

それにもかかわらず、短期的な処理件数だけで評価すれば、現場は元の方法へ戻ります。

導入初期には、実際の業務で試したこと、失敗を記録したこと、確認方法を整えたこと、他の人が使える形にしたことも、仕事として扱う必要があります。

ただし、「AIを何回使ったか」を評価指標にするのは違うと思います。

回数を目標にすると、使う必要のない場面でも形式的に利用する人が出てきます。見るべきなのは、仕事の時間、品質、検討範囲、手戻りがどう変わったかです。

AIを使ったという事実ではなく、AIを使って仕事がどう変わったのかを確認する必要があります。

AI格差を、組織の学習に変えられるか

AIを使える人と使えない人の差は、今後も残ると思います。

全員の関心や適性を同じにすることはできません。新しい道具をすぐ試す人もいれば、ある程度安定してから使いたい人もいます。

問題は、差があること自体ではありません。

使える人の方法が個人技のままになり、その人だけが速くなっていくことです。

優れた使い方を見つけたのであれば、それをプロンプトとして共有するだけでなく、入力情報、作業手順、確認方法、判断基準を含む業務の型に変える必要があります。

使いこなせない人でも、その型を使えば一定の成果を出せる。逆に、その業務に詳しい人が持つ知識や注意点は、AIを使う側の確認基準として取り込む。

ここまでできて、ようやく個人のAI活用が組織学習になるのだと思います。

AI活用というと、どうしても人を教育する話になりがちです。

しかし、教育だけで人を変えようとするのには限界があります。

必要なのは、人がAIに合わせることだけではなく、AIを使いやすいように仕事の形を変えることです。そのうえで、支援が必要な人、別の役割で価値を出せる人、変化に適応しようとしない人を分けて考える。

その線引きを曖昧にしたまま、「みんなでAIを活用しましょう」と呼びかけても、動く人だけが動き、差はさらに広がります。

AIを使える人を増やすことより、使える人が見つけた方法を、他の人も実行できる仕事の仕組みに変えられるか。

いま組織に問われているのは、そこではないかと思っています。

参考情報

Microsoft「The 2025 Annual Work Trend Index: The Frontier Firm is born」
AIを個人の作業支援だけでなく、人とAIエージェントによる業務や組織の再設計として捉えた調査です。調査主体がAI製品の提供企業である点には留意が必要ですが、個人利用と業務モデルの変更を区別する参考になります。

Microsoft「How Frontier Firms are rebuilding the operating model for the age of AI」
人とAIの協働を、部分的な補助、初稿作成、タスク委任、複数エージェントの統括という段階で整理しています。すべての業務を高度に自動化するのではなく、業務ごとに適切な関与方法を選ぶべきだとしています。

コメント

タイトルとURLをコピーしました